加藤哲宏:『夢見る人形と星屑の旅を』撮影記


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撮影監督 加藤哲宏


studioREBARDとの出会い

僕にとって"大学の後輩"という関係が説明としては一番しっくりくる芳井監督から電話をもらったのは本当に突然のことでした。
 数年前、とある東京の撮影現場で一緒だった程度の関係で、それ以来まったく音沙汰が無かった2009年の年明けに、「春に北海道で短編を撮る予定なので、撮影をお願い出来ないか」というお誘いの内容でした。
 昔話もそこそこに(監督は昔話に花が咲くタイプではなく、もしかすると互いに寡黙なイメージを持っているかもしれません)、彼の故郷でstudioREBARDが撮影したという過去作品『リアの島』を見せてもらいました。
 画面に現れた少女と馬が夏の大地に優しく立っている姿を見ただけで、僕の返事は決まりました。こういう世界で撮影をしたい、と強く思ったのです。

少し僕の話をしますと、僕は動画撮影の助手をしながら、徐々にカメラマンとしての撮影も始めていた時期でした。ジャンルは映画やドラマから、CM、ミュージックビデオ、ドキュメンタリー、時にはニュースに至るまで何でも引き受けていました。ただ、一つだけ決めていたモットーがあって、それは海外や、東京から遠く離れた、どこか地方の臭いのする仕事を優先的に受けるということでした(今でもそれは変わりません)。

映像技術や価格的にもビデオカメラの驚くべき進歩が追い風となって、若い映像作家達が、それこそ僕が監督と出逢った学生時代には考えられなかったほど容易に、しかし確りとしたプロレベルで映像を撮れる昨今です。その進歩は今なお発展途上にあるのですが、しかしいずれの時代においても映像作品の価値、特に撮影という領分での真価というものは、カメラマンがどれだけ色んな物を見ているか、実はそのポケットの多さに依る所が非常に大きいと思っています。
 カメラマンとしてのキャリアがスタートしてから、数多くの国を訪れ、人々の顔立ちの違い、または建築様式の違い、地質の違いや湿度に依る光の違いまで、総てを目の当たりにして様々な視覚的な刺激を受けて来ましたが、果たして北海道の大地も素晴らしい想像力を与えてくれる宝庫だったのです。



3月末の新千歳空港に降り立った僕を待っていたのは、少し逞しくなった顔つきの監督とstudioREBARDのメンバー達でした。
そして雪!雪!雪!

その後クランクアップまでの一ヶ月間、雪にまつわる苦労には事欠きませんでした。
小樽の雪原では足許が抜けて胸元まで嵌り、
ライトや三脚の設置のためにまずは雪掻きから始めたり、
はたまた今度はロケハン時には雪原であった場所が例年より早い春の訪れで撮影時には雪が全て溶けて無くなっていたり、雪との悪戦苦闘の日々でした。しかし、画面の中はというと、雪化粧によって邪魔な物が覆い隠され、ファンタジー映画の雰囲気がぐっと高まっていくのでした。

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「夢見る人形と星屑の旅を」撮影風景より


デジタルとアナログ

「ベタなくらいのファンタジーを撮りたい」という監督がこだわったのが"明るい夜"でした。普通に夜を撮影すると空が黒くなってしまうのですが、監督には空を藍色で残したいという狙いがありました。この物語は夜の間だけ人形が人間に変わって主人公の女の子と魔法の時間を過ごすという設定なので、夜を印象的にする必要があったのです。
 満点の星空の下、灯里(あかり)と宙(そら)の主人公達が冒険に出発し、オーバ&モーリの凸凹コンビが二人を追い掛ける。梟のミックはそんな四人のまわりを颯爽と飛んでいく。そして最後には灯里と宙も星屑の彼方へと風に乗るのです。

 
グリーンバックを使った合成撮影を行う片一方で本物の梟を飛ばしたり(なかなか思い通りに飛んでくれなかった!)、"石狩低気圧"が引き起こす不安定な天候と闘い(天気待ちの多かったこと!)、ロケハンで見付けた素敵な家に撮影場所の提供をお願いしたりしました(このお家は見事主人公の住む家になりました!)。この様に、最新の撮影/コンピューター技術と、−10度に届く寒さの中でも汗をかく様なアナログ作業の積み重ねを掛け合わせて「夢見る人形と星屑の旅を」は完成したのです。

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本編より。デジタルとアナログの融合がファンタジックな夜空を生んだ。


今後を見据えて

自分がまさかファンタジー映画を撮るとは想像もしていませんでしたが、合成撮影はとても楽しく、CG処理が完成していく過程には興奮を抑えられませんでした。子供たちのそばにカメラを置くことが多く、ここまで被写体に近付いて撮ったのは初めてでしたが、こういった距離感を自分の中に植え付けてくれたという意味でも新しい発見の多い作品になりました。
 ロケハンで石狩、札幌、小樽、江別と色々回りましたが、北海道の景色の絵になることと言ったらありませんでした。公園の白樺林一つとっても、樹樹の間には空間があり、すっくと立つ白い幹の一本一本が印象的なのです。こういう樹樹とか雪や寒さであったりとか、普段気に留めることの少ない自然の現象について、より一層考える様になった事がカメラマンとしてとても面白く感じられました。     

自然を読み、それに挑んでいく作業はとても興奮するものでした。『夢見る人形と星屑の旅を』後もstudioREBARD作品に何度か参加させてもらっていますが、北海道は撮影場所としての可能性に溢れているといつも実感します。studioREBARDにはこれからもこの北海道の魅力を最大限の武器にして、良質の映像を生み出し続けて欲しいと願っています。



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加藤哲宏

1979年神奈川県出身。日本映画学校で撮影と照明を学ぶ。
卒業後、撮影助手として映画・ドラマ・CM・PV・ドキュメンタリーの製作に携わる。同時に自主制作映画などを通じてカメラマンとして作品を撮るようになる。カメラマンが照明を決める撮影監督スタイルを目指す所とし、AFTRS(豪の映画学校)の短編('07)や『TSUYAKO』('10:USC卒業制作)等海外作品に撮影・照明助手として参加。また、『2nights, 3days』('07)ではモンゴルアカデミー最優秀撮影賞にノミネートされる。
主な作品:『ブリュレ』('05)、『モスリン橋の、袂に潜む』('05)、『TOKKO』('07)、『リプレイガールズ』('10、カメラオペレータ−)、『水銀柱の恋』('11)、『新世界の夜明け』('11)。